私たちのキッチンキャビネットには、缶詰や調味料のパッケージ、乾物などが、常にぎっしり詰まっている。アメリカに来たばかりの頃は、アメリカ人の家の台所に物が貯蔵されすぎているのを見て、「なんて無駄なことを」と思ったものだが、自分が実際に台所を所有し、ある程度の収入があるようになると、いつの間にかそんなアメリカ人と同じことをしているような気がする。スーパーで何か新しい調味料のパッケージを見つけると、ついつい買ってしまうのである。実際の毎日の生活では、時間がなかったり、面倒になったりと、結局いつものメニューの繰り返しになりがちなため、こういった新しい冒険調味料たちは、キッチンの棚に眠りがちなのである。
しかし、この今まで眠っていた調味料たちが、脚光を浴びる日がやって来た。メモリアルデーの週末、夫の甥と姪がオクラホマからやって来るという。そこで私たちはキッチンのキャビネットを開け、どんな料理ができるか話し合ったのだ。夫は彼の食品会社から買った豚肉でバーベキューがしたいと言った。
「サイドディッシュは何にしようか。」
と、キャビネットをごそごそかき回していた彼は、奥の方からクノールの「ディップの素」を見つけ出した。そして、「これ、作ってよ!」と、子供のように目を輝かせながら、元気に言う。
「パンの上にディップを載せたら、おいしいよ!」
こういう時、私は夫がアメリカ人だな、と思う。日本人の男性なら、粉末のディップの素を見つけ、我に返って主張することはないと思う。それは、日本人の食生活の中に、ディップをつけて野菜やポテトチップスを食べるという習慣がないからである。普段、私が作る日本食を喜んで食べる夫を、「日本食通」と勝手に思い込んでいる自分に気付かされる瞬間である。
このクノールのディップの素のパッケージの裏には、「ほうれん草のディップ」の作り方が書いてあった。材料を見ると、サワークリーム、マヨネーズの他に、ほうれん草、ねぎなどの野菜で作ることができる。どれも簡単に手に入るものばかりだったので、これを作ることにした。いつものように、ほうれん草を電子レンジにかけ、水で洗った後、1センチくらいの長さに切る。後は、ねぎのみじん切り、サワークリーム、マヨネーズと、粉末のディップの素を混ぜるだけである。それを「ぺネーラ」という私のお気に入りのパン屋で買った、ゴマ付きのパンとサワーブレッドの上につけた。アメリカのねぎは、日本のより小さく、味もまろやかである。このねぎとほうれん草が、サワークリームに良く合った。それにパンは、奮発してスーパーのよりはかなり高めのぺネーラのパンである。なんだかその特別さが、華やいだ気分にさせてくれた。これくらいで喜んでいるのだから、私も相当安上がりの性分である。夫の甥と姪は、雪の季節の休校を補修するため、学校に行かなければならず、結局私たちの家には来なかったのだが、おかげで料理のレパートリーが一品増えることになった。
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