オフィスでコンピューターに向かい仕事をしていた私に、夫から電話がかかってきた。
「今日は天気がいいから、公園でピクニックしよう。」
特別スケジュールで働く夫は、週日に休みを取ることが多く、こうして職場にいる私にランチの誘いをかけることがある。彼は7日間連続で働いたばかりで、最近ろくに話をする時間もなかった。久しぶりのランチデートで会社の駐車場まで迎えにきた彼の車に乗り、私たちは近くの公園に行くことにした。
散歩道をジョギングしている人たちに混じり、同じ部署の同僚達が話しながら歩いているのが見える。私たちは駐車場に車を止め、さんさんと太陽の光が降り注ぐ野球観戦用ベンチに腰を下ろした。シルバーのベンチに跳ね返る太陽の光があまりにも眩しく、夫のサングラスをはめた私は、彼が持参したドミノピザの箱を開けた。中にはミディアムサイズのペペロニピザが入っていた。私の好物の具ではなかったが、あまり塩気が強くなく、舌に感じる手作りの生地が、意外にも新鮮でおいしかった。この雰囲気がおいしくさせるのかもしれない、若葉の緑が目に映える初夏の公園で、同じようにピクニックを楽しむ人々を見ながら、そう思った。ドリンク2つ付きで8ドル55セントのピザでも、息が詰まるオフィスから抜け出し、夫と共に太陽の下で食べれば、特別な味に思えるのだ。夫は、仕事について語り出した。新しいシステムが会社に導入され、全ての出荷が瞬時にコンピューターに記録されるようになったらしい。便利なように聞こえるが、つまらない操作ミスで仕事がなかなか前に進まない苛立たしさに、彼はいつもにも増して弁舌になっていた。7日間も連続で働けば、ストレスも倍増するというものだ。心地良い風が吹く開放的な公園と対照的な話は、どこか遠くで起こったことのように聞こえた。あまりにものどかで、平和な風景。緊張感が続く生活の中で、こういった人間として息を吹き返す時間は、必要だ。
仕事を終え、車で家路に向かう途中、夕食のメニューを考えた。ファーマーズマーケットで買ったキュウリを今日中になんとか使い切りたい。日本から持ってきた「バンバンジーの素」で鶏肉とキュウリの和え物を作ろう。そんなことを考えながら家の玄関を開けると、夫がキッチンにいた。最近、会社の社員価格で彼が買った、豚肉のステーキがオーブン板に載っている。
「これをオーブンで焼こうと思っているんだ。」
この彼の一言で、私の頭の中で描いていた献立が一気に変った。
「じゃあ、私がサラダを作るね。」
バンバンジーになる予定だったキュウリをスライスし、人参をすり下ろし、この上にチーズとクルトンを載せ、夫の食品会社のランチドレッシングをかける。夫は冷凍食品のブリートをオーブントースターで焼いた。彼は、パリッとした歯ざわりを好むので、電子レンジよりもオーブントースターをよく使う。
オーブンから出されたポークステーキは、バーベキューソースとイタリアンソースの匂いを漂わせながら、こんがりおいしそうに焼けていた。このステーキを夫が切り分け、サラダとブリートと共に皿の上に盛った。冷蔵庫の有り合せの材料で作ったにもかかわらず、なかなか豪華な夕食となった。店頭に並ぶことなく農家から直接届けられた豚肉は、柔らかく甘かった。これが、夫が言っていた「新鮮さが違う」ということなのか。普段スーパーで買う豚肉とは、比べ物にならないほどおいしい。食料品会社に勤める夫の存在に感謝しなければならない。ピクニックのピザといい、夕食のポークステーキといい、夫との食事に満足な一日であった。